老舗探訪


仲町通りで長年商いを続けてきたお店や歴史文化を伝える建物をご紹介します。

黒沢ビル(旧小川眼科病院)


 昭和初期のモダンな佇まいを残す黒沢ビルは、昭和4年(1929年)に竣工されました。一階部分に鉄平石の張られた白亜の美しい建物は、尖塔アーチの窓や膨らみのある窓庇など、大正期から昭和初期にかけて隆盛を極めた表現派の影響を受けた意匠となっています。そして建物内部には、正面玄関の欄間を飾る「鶏鳴告暁」をはじめとして、大正から戦前に活躍したステンドグラス作家「小川三知」の作品を見ることができます。2005年には東京都の登録有形文化財に指定されました。

喜屋


 店内の壁一面に並んだ色とりどりの瓶に目を奪われる「喜屋」は、大正時代初期に創業した日本画・水墨画材料の専門店です。日本画では、主に鉱石を砕いて作られる岩絵具に固着材をくわえて描く技法が用いられます。「喜屋」では、自ら仕入れた鉱石を粉砕・精製した天然岩絵具のほか数千色に及ぶ絵具を取り揃えています。開業以来百余年にわたって、東京藝術大学の学生や文化財修復の専門家などに愛され、芸術創造と文化財保護の両面から芸術文化を支えてきました。

京屋


 木目の美しい調度品や漆器が並ぶ「京屋」は、大正元年(1912年)創業の江戸指物店です。指物とは、金釘を一切つかわずに木材の凹凸であるホゾを堅牢にそして美しく組み上げて作られる調度品のことで、「江戸指物」は東京都伝統工芸にも指定されています。「京屋」は安藤鶴夫、円地文子、久保田万太郎、平岩弓枝など多くの文芸家たちの作品に登場してきました。また、時代を超えて受け継がれてきた職人仕事による一点ものの調度品は、現在でも高い人気を集めています。

小池屋


 呉服の「小池屋」は、嘉永3年(1850年)に初代が不忍池の畔に店を構えたことに始まります。明治10年に現在の場所に移転して以来、宗家藤間流をはじめとする舞踏界・歌舞伎界や落語界など、伝統芸能にかかわる人々に日常着である着物を提供してきました。また、池之端の「山の手と下町の境界」という地理的特性をいかして、下町花柳界の粋な着こなしと山の手の好む上品さを融合させた新しい着物のあり方を提案するなど、伝統と革新の両面から着物の文化を今日に伝えています。

堺屋酒店


 仲町通りと吹き抜け横丁が交差する四つ角に建つモダン建築が「堺屋酒店」です。創業は江戸時代、寛永寺に出入りしていたことから池之端の老舗漬物店「酒悦」と同じように「酒好」の屋号もあります。曲線フォルムとガラス窓によるファサードが特徴的な建物は、昭和4年(1929年)に建てられたものです。看板に掲げられた、クローバーに「酒好」と彫られたレリーフと「堺屋」の文字は、明治から昭和にかけて日本彫刻界を牽引した朝倉文夫の作品で、往時の芸術家との深い親交を偲ばせます。

道明


 色彩豊かな帯締が美しく並ぶ「道明」は、承応元年(1652年)に糸商として創業して以来370年にわたって池之端で組紐作りを続けてきました。組紐の需要は、江戸時代には武士が身につける刀の下緒や柄糸などが中心でしたが、明治時代に入り帯刀文化が廃れると当時定着しつつあった女性の着物の帯締めへと移行しました。道明では博物館や寺社の依頼で歴史的価値の高い紐の製作や復元にも取り組むなど、時代のニーズに対応しながら組紐文化を守り続けてきました。

守田寶丹(守田治兵衛商店)


 「守田宝丹」は、延宝8年(1680年)創業の都内で現存する最も古い薬店です。店名の「宝丹」は、幕末に来日したオランダ人医学者ボードウィン博士の処方を改良して発売した胃腸薬に由来しています。ロゴの特徴的な筆文字は、宝丹を開発し、書家としても活躍した九代目守田治兵衛によるものです。九代目は新聞広告やポスター、看板などを活用し、落語の台詞に「宝丹」を盛り込むなど、メディアをつかった宣伝を先駆的に展開して宝丹を国内外にひろく普及させました。

蓮玉庵


 歴史を感じさせる店構えに掲げられた「蓮玉庵」の看板は、俳人・久保田万太郎の筆によるものです。森鴎外や坪内逍遥、斎藤茂吉などの文芸作品に登場し、多くの文豪や歌人に愛されてきた蕎麦屋は、安政6年(1859年)に創業しました。創業時は不忍池に面したところに店舗があり、不忍池に咲く蓮の葉の上に光る朝露から屋号「蓮玉庵」を付けたといわれています。戦後現在の仲町通りに居を移し、店内ではそば猪口や浮世絵などのコレクションも楽しむことができます。

しのばず和めぐりマップ

美術、工藝、和装、和食、甘味、芸能…池之端、湯島界隈には他にも和にまつわるお店が集まっています。
以下リンク先では素敵なイラストMAPでそれらの店を紹介していますので、ぜひご覧ください。
(マップデザイン・イラスト:ツルタシュリ)

しのばず遊ぼう!池と町「しのばず和めぐり」
https://www.shinobazu-asobo.com/project02